現地のインディアン(ワポ族)の言葉で「豊潤の地」を意味する、ナパはカリフォルニア随一の銘醸地。
カリフォルニア州で最初にAVAに指定された地域で、「ワインカントリー」とも呼ばれている。
カリフォルニア全体のワイン生産のわずか4%にすぎないが、ワインの売上高では、じつに20%もの割合を占めている。
こうした数字が示すように、世界各地から多くの訪問客(年500万)を引き付けている。
気候は、カリフォルニア北部の他の地域と同様に、この狭い谷の南部の開口部は、北部に比べて、夏の温度で少なくとも平均6.3℃は涼しい。谷底の空気が熱せられて上昇する際、海からの冷風を内陸に引きこむからである。その冷風は、カーネロスからスタッグス・リープ地区へ絶えず吹いてくるが、渓谷の奥の北部のダイヤモンド・マウンテンやスプリング・マウンテン周辺では、ソノマ側のチョーク・ヒルのすきまを抜けてくることもある。
南部のカーネロスの気温が良質のワインを生産するための下限であるのに対して、北部は質の高いワイン造りを目指す生産者たちが気を挟むほど暑くなる。
その中間にある大半の土地は、さまざまな種類の葡萄栽培に適しているが、特に晩熟のカベルネ・ソーヴイニヨンに最適である。
渓谷の東側斜面は気温が上がる午後は太陽の恵みを充分受けられるため、午前中の日差しで葡萄が成熟する西側斜面に比べてより柔らかいワインができる。
渓谷の東西両側にある標高の高い畑は、谷底が霧に覆われている午前中でも霧が掛からず、強烈な日差しを浴びるというメリットと、夕方の涼風で昼夜の温度差が大きく、渓谷底部のワインよりも構成がたくましく濃厚である。
ナパの最高のカベルネは、世界屈指、比類ないほどの豊満さを醸し出し、極上のものは更に厳格さをも合わせ持ち長期熟成に耐える。一方、ほんの3、4年ものでも楽しんで飲むことができるワインも少なくない。
ワイナリーの数は大小合わせて400弱で、カリフォルニアの他の産地に比べ圧倒的数である。「ドメーヌ・シャンドン」や「スターリング」などの大規模ワイナリーは、近代的な施設と優秀な人材を確保し年間に何十万ケースというワインを生産、世界各地に販売網を拡大してきた。
90年代には、超高級ワインをごく少量しか生産しないワイナリー、いわゆる「ブティック・ワイナリー」が台頭。オークションで記録的な高値で取り引きされるほどのワインを造っている。
ワイナリーの数(420程)に比べ、栽培農家の数は優に700を超えている。このワイン醸造販売業者と葡萄栽培農家との関係は、他の優れたワイン産地とは多分に異なるナパの特徴である。ナパのワイナリーは、お飾り程度の自社畑しか持たないところも少なくない。基本的には葡萄や時にはワインまでも買い付け、できるかぎり多様なブレンドをしてワインを造っていると言える。
こうしたワイナリーは、ナパ・ヴァレーだけでなく、セントラル・ヴァレーやモントレー南部の葡萄やワインを買い付け運び込んでワインを造っている。
幅広いワインをリリースし、産地指定のワインを送り出している。
Beringer Voneyards (ベリンジャー)や
Sutter Home Winery (サッターホーム)の、
かすかなピンク色のホワイト・ジンファンデルは、セントラル・ヴァレー産の葡萄で造られている。
同時に、ごく小規模な葡萄畑のカルト・ワイン、
Grace Family (グレース・ファミリー)、
Vineyard 29 (ウィンヤード29)、
Herb Lamb Vineyards (ハーブ・ラム)、
Corison Winery(コリソン)
などもここにあり、その賑わいは一様ではない。
気候は、西側に山が立ち塞がり、霧や涼風の影響が薄れるため非常に温暖。ヴァレーの北部は狭く、山の斜面からの熱の照り返しで、真夏の気温は、31 ~35 ℃にもなる。降雨量は950mm~1000mm 。
畑は海抜 46m ~185m程度にある。 土壌は、南と西の境界はより小石や粘土の多い堆積土が主で、肥沃度は低く、保水力は並。北と東へ行くほど火山性土壌で、表土は深くより肥沃度が増す。
栽培品種:カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ジンファンデル,ローヌ系品種 ( シラー、ヴィオニエ)、
20世紀前半からこの地では、寝かせる価値のある秀逸なカベルネが造られ、イングルヌツク(Inglenook)やボーリュー(Beaulieu Wineyard)がカリフォルニア・ワインの名声を築いた。今でも1940年代のその銘柄は長寿を証明している。
栄枯盛衰は世の習いだが、映画監督のフランシス・コッポラが、かつてこの地で最も名を馳せたイングルヌックのワイナリーと葡萄畑を復活させ「RUBICON ESTATE (ルビコン・エステート)」を立ち上げた。
ラザフォードの気候は温暖。サン・パブロ湾からの朝霧の影響はここにも及ぶ。西側ベンチ(段丘)は夕方の日照が当たらず、午後の涼風のためにやや涼しい。オークヴィルやスタッグス・リープ地区よりやや気温が高くなる。一般に夏の最高気温は 30 ℃以上で、夜間との気温差が激しい。降雨量は950mm。
標高がほぼ一定(高いところで180m)なため、比較的均一な特質を持つが、よく知られている畑は、ラザフォード・ベンチと呼ばれる西側にある。
砂利の混じった堆積砂の扇状地をナパ・リヴァ一が侵食した棚状の平坦地である。大変水はけがよく深い土壌のため、収穫量を抑えて早熟させればフレーヴァーを濃縮させやすい。ここのワインには、「ラザフォード・ダスト」と呼ばれるかすかなミネラル分が往々にして感じられる。
午後の日差しが最も長く降りそそぐ谷の東側は、ヴァカ山脈から流出した砂利まじりの堆積土壌で、非常に水はけがよい。
ナパ・ヴァレー北部へ向かう途中にあるオークヴイルでは、肉づきのよい本格的なカベルネが実る。ここのワインには、ラザフォードのような重みや気骨はあまり感じられないが、ナパ・ワインの真髄ともいえる芳醇さが備わっている。人気のあるシャルドネやソーヴィニヨン・ブラン、そして納得のいくサンジョヴューゼも産するが、核となる品種はカベルネである。
気候は、温暖で夏は一般に 30 ℃前後まで気温が上がる。かなり南にあるため、夜間と早朝に出る霧や冷風の影響を強く受けるが、カーディナル南東にある円丘が、この霧や冷風が流れていく方向を左右する。降雨量は875mmで、海抜23~150mに畑がある。 ラザフォードと同様、オークヴイルも西側と東側では大きく異なる。
西側では扇状地が大半を占める。マヤカマス山脈から洗出した大きな砂礫を土壌に多く含み、比較的水はけはいい。谷底に近づくほど、葡萄は成熟しやすい。
この西部にある「トカロンの畑」は、1870年に始めて葡萄の樹が植えられた畑である。この畑は最高のカベルネを生むと言われ、現在は、葡萄栽培家のペックストッファーとロバート・モンダヴイが畑を分けあう形で所有している。
ナパ・ヴァレーの葡萄畑の中で、現代になって最初に国際的な名声を得た「マーサズ・ヴィンヤード」もこの西側にあるが、ここの葡萄を使ったワインを、Heitz Wine Cellar(ハーツ) がラベルにも表示しており、この畑の秀逸さは抜きん出ている。
一方の東側
では、葡萄はさらに成熟しやすい。東部にあるヴァカ山脈の斜面下方は、午後の日差しを長く浴びるため、葡萄のみずみずしさが危ぶまれるほどである。土壌は比重が重く、より火山性である。
渓谷東側のScreaming Eagle Winery&Vineyards (スクリーミング・イーグル)と西側のHarlan Estate (ハーラン)は傑作だが、すばらしいワインはこれだけではない。
オークヴイルの名声の高まりを受けて、幾人かの生産者たちはワインの一部を全米各地のチャリティー・オークションに出品し、ゼロがずらりと並ぶ値をつけさせ、世間を驚かせている。
Stags Leap Wine Cellars
(スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ)
は、1976年一夜にして名声を築いた。ここのカベルネが、パリで開かれた歴史的な試飲会で、フランスの一流ワインを抑え、堂々1位の座に輝いたのだ。
この偉業は今でも語り草となっている。これを契機に、さらに知名度の高いほかのカリフォルニアワインが、ボルドーの最上ワインと競い合うようになった。
その後の試飲会でも、フランスワインを圧倒した。
この地のカベルネは、たしかに名声に値する。スタッグス・リープのカベルネは、ナパで一番判別しやすい。その特徴は絹のような舌触り、スミレやチェリーを思わせる芳香、つねにしなやかなタンニン、力強さを持ち、ナパのカベルネの平均以上の繊細さを備えている。マルゴーのワインと比較されることさえある。
メルローも植えられていて、ワインはリッチ。
畑は、ヨーントヴイルの東に位置し、谷底の小高い円丘と次第に高くなる東側の丘陵とに挟まれた地区である。高名な地区だがその面積は小さい。
南北5km東西3kmのこの小さなAVAは、東端にそびえる玄武岩の絶壁にちなんで名づけられた。岩肌は午後の日差しをさんさんと浴び、暖かい空気を放散させる。この空気は、これまた午後になると吹いてくる海風によって適度にやわらげられる。海風はゴールデンゲートブリッジを抜けてサン・パブロ湾を渡り、バークレー背後の丘陵に当たって方向を変え、ナパの谷を北上してくる。
「スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ」の畑の一部は、北側の円丘によってこの風から守られている。このAVAは丘陵や尾根が複雑に入り組んでいるため、一様ではないが、ここは北部よりも暖かく、2週間も早く葡萄が芽吹く。葡萄の成熟速度は遅く、ラザフォードなどとほぼ同じ時期に収穫される。
谷底は適度に肥沃で、砂礫まじりの火山性ロームである。海風から守られている丘陵斜面は、岩の多い、大変水はけのよい土地である。「スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ」と「シェイファー (Shafer)」の畑はこの丘斜面にある。
真夏の最高気温は 37℃にまであがる。一般に気温は32~34℃。海抜:20m~123mで、降雨量は、750mm。
スタックス・リープの名は、地元に伝わる伝説に由来する。ワッポ族の言い伝えによれば、立派な雄鹿(スタッグ)が谷上方の崖で狩人たちに追われ、大きな岩の割れ目を飛び越えて(リープ)逃げたという。
この地のワイナリーはDOMINUS ESTATE (ドミナス)がよく知られているが、DOMAINE CHANDON (ドメーヌ・シャンドン)のワイナリーもここにある。しかし、ドメーヌ・シャンドンの畑の多くはカ-ネロスにある。
栽培主品種は、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シャルドネ、リースリング。 秀逸なリースリングと長熟のカベルネが生まれている。
代表的ワイナリーは、MAYACAMAS VINEYARDS(マヤカマス)、HESS COLLECTION WINERY(ヘス・コレクション)など 。
DIAMOND CREEK VINEYARDS (ダイヤモンド・クリーク・ヴインヤード)は早い時期から、火山土質をはじめとするきわめて多様な土壌からこだわりのある単一畑のワインを生産してきた。また、ナパのスパークリング・ワインの先駆者・SCHRAMSBERG VINEYARDS (シュラムズバーグ)が、この地にワイナリーを定めているのは、ナパの中でも、この地の冷涼さにいち早く気付いていたことによるものと思われる。
(更に冷涼な地域にベースワインの供給地を求めている)
STONY HILL VINEYARD (ストーニー・ヒル)は1960年代に長命のシヤルドネを造り、カルト・ワインの先駆けとなった。PRIDE MOUNTAIN VINEYARDS (プライド・マウンナン)、YORK Creek(ヨーク・クリーク)はカベルネと良質のジンフアンデルでよく知られている。
この山間部の葡萄畑は、ナパ・ヴァレーでますます重要になりつつある。
今日、この地域への訪問者の賑わいは、歴史的な町カリストガを本拠地とし、ワインの試飲と有名なミネラルプールや火山灰泥風呂を組み合わせてリラックスした休暇を過ごすことに人気があるからのようだ。