一般的に、気候条件は、フランスやイタリアのように、北へ行くほど冷涼で、酸の切れのいいワインが産出され、南へ行くと濃厚な赤ワインが出来ると言える。
しかし、カリフォルニアにはこれは当てはまらない。 カリフォルニアは、南北の位置の違いよりも、寒流の流れる太平洋からの冷気の影響が大きいのが特徴である。 (欧州の緯度に当てはめれば、カリフォルニアはナポリからカイロに相当するが、太平洋岸ははるかに涼しい)
カリフォルニアの気候は、本来日照時間が長く、乾燥していて温暖。昼夜の温度差の大きい、いわゆる地中海性気候である。が、その大きな特徴は、海岸線の地形がつくる多様な気候である。 海岸線の山脈は、ある場所では寒流の流れる太平洋からの冷気を遮断し、ある場所では、河川が刻んだ渓谷から冷気を呼び込む。
カリフォルニアにおける温度差は南北の緯度の高低よりも、はるかにこの冷気の流入の差によって生じている。 この冷気(多くは霧を発生させる)の濃淡や日照の過多が、ある場所ではボルドー品種、又ある場所ではブルゴーニュ品種、更に言えば、北のドイツ品種から南のイタリア品種までもの栽培を可能にし、結果として、非常に多種多様なワインを生み出しているのがカリフォルニアである。
長い歴史と風土によって育まれたヨーロッパのワインにひけを取らないワインを、1960年代以降生み出している裏には、新世界ならではの自由な発想とチャレンジ精神、最新技術の導入があることは言うまでも無い。
近年、自社畑を持ち、葡萄栽培と醸造の両方を行う傾向にあるが、それでも自社畑の葡萄からだけで造るワイン生産者は少なく、多くは自社畑を持っていても、よそから葡萄を買い入れて醸造し、ワインのラインアップを揃えているのが一般的である。
栽培農家とワイナリーとの関係は、時には競争相手であることもあるが、近年この関係は密接な協力関係にあることもカリフォルニアの特徴で、栽培法や新技術の打ち合わせはもとより、契約葡萄栽培者に対して、醸造家が好む風味を持つ葡萄を育てるための指定や打合わせ、更にはお互いの研究も行われている。
スティルワイン
ヴァラエタル・ワイン
は、その使用品種名が75%以上のものであれば、その品種名をラベルに記載できる。
ジェネリック・ワイン
は、一般に日常消費用の安価なブレンドワインで、ブランド名に赤、白、ロゼ、ブラッシュの色表示をするが、ラ イン、モーゼル、バーガンディ、クラーレッ トなどヨーロッパのワイン産地名をワイン名として表示することもできる。後者の場合はぶどう品種についての制限はなく、その産地の味のタイプを基準にしてつくられ、国内消費に向けられている。
プロプライアタリー・ワイン
は、ワイナリーが独自のブランド名を付けたブレンド・ワインである。フランスのボルドーを原産とする品種のブレンド、例えば赤なら、カベルネ・ソ ーヴィニヨンとメルロ、カベルネ・フランなどのブレンドから造られたもの。このワインはメリテージュ(MERITAGE)と言う総称をもち、ラベルに、<MERITAGE>メリテージュと記載されたものもある。
ヨーロッパ諸国では原産地呼称に栽培品種、収穫量、醸造方法などの規制が結びついている場合が多い。例えば、ブルゴーニュのコート・ドールの赤ワインはピノ・ノワール種、イタリアのバローロはネッビオッロ種というように産地と品種がわかちがたく結び付いている。
対して、アメリカのAVAは、栽培品種や栽培方法、醸造方法に関する規制は定めていない。 原産地呼称が使用できる範囲とその呼称名の規制を目的としているものである。 1992年5月現在、全米で115地域がAVAに指定され、内63がカリフォルニア州内にある。
複合するA.V.A
カリフォルニア州内のAVAは、東はシェラ山脈の麓から西は太平洋岸まで、北はハンボート・カウンテイ(郡)から南はサン・ディエゴの近郊までと広範囲に分散している。
そのいくつかは、AVA・ノース・コースト、AVA・セントラル・コーストのように複数のカウンティを抱合している。また指定地域の広いAVAはその中により小さなAVAが抱合されている。
例えばAVA・ノース・コーストにはアレキサンダー・ヴァレー、ソノマ・ヴァレー、ナパ・ヴァレーなど数多くのAVAが含まれ、さらにナパ・ヴァレー内にはスタッグス・リープ・ディストリクト、ハウエル・マ ウンテンなどのAVAが含まれている。
このようにAVAは同心円のように複合的に指定されていることが多い。
(フランスに於いては、特にブルゴーニュのように、地域より村、村より畑と、小さくなるほど、個性的で上質と「格付け」がなされているが、カリフォルニアには、これは当てはまらない。)
カリフォルニアで広く栽培され、長い間カリフォルニア原産と考えられていた品種にジンファンデルがある。近年高品質のワインも造られるようになり、この品種の名がよく知られるようになったのもカリフォルニアに於いてである。
この品種は、1世紀以上に渡って、カリフォルニア原産の葡萄と見なされていたが、近年、DNA鑑定により、クロアチア原産のものであることが明らかにされ、イタリアのプーリア(かかとの部分)で18世紀から栽培されてきたプリミティーヴォ(Primitivo)種と同一であることがはっきりした。
ジンフアンデルは1880年代後半からカリフォルニアで盛んに栽培されていたが、その起源はまちまちで、1800年代に東海岸に入ってきたものと考えられている。 果粒は中程度で色が濃く、果皮は薄い。房は中くらいで、果粒が密集している。樹齢の高いジンフアンデルはヘッド・トレイニング法と呼ばれる努定法が使われており、垣根(ワイヤー)がない。果粒の熟成度にばらつきがあり、理想的な摘み頃を正確に判断するのが難しい。雨に弱く、乾燥にめっぽう強い品種である。
セントラル・ヴァレーでは、広く生産されているが、多くは、ミュスカやリースリングで香りを付け、白ワインの製法を用いた「ホワイト・ジンファンデル」(White Zinfandel)と呼ばれるピンク色のワインを造っている。 高品質ジンフアンデルを造ろうと意欲に燃える醸造家は、クラシック・ジンフアンデルといわれるタイプのワインを造り、最近注目されている。これは、この品種の栽培に適した地区の、完全に熟した質の高い葡萄を使い、小型の良質のオーク樽で熟成させている。ワインによっては長熟のものもある。
ボルドーのメドックからこの品種の素晴らしいワインの生産が始まり、ボルドーのワインを通して世界中で高い評価を得ている品種。
小粒で果皮の固い晩熟な品種。乾いた土壌と温暖な気候が必要で、ボルドーより北部では、ロワール川中流域までが栽培の北限。
完熟すると、色、風味に加え、引き締まったタンニンが素晴らしい。
醸造と樽熟を慎重に行えば、最も長命で複雑で豊かなアロマを醸し出す。ボルドーではメルローやカベルネ・フランとブレンドされるが、チリや北カリフォルニアでは素晴らしい単品種ワインが出来る。世界中に最も広く行き渡った赤ワイン品種である。
この品種は、19世紀までは2流品種と考えられていたが、現在では、赤ワインの最高品種の一つである。
最高のメルロの生産地はポムロールだが、ボルドーから地中海沿岸や新世界各地で幅広く栽培され、まったく違う様々な生育条件や気候に問題なく適応している。
果粒が大きく肉付きがいい。果皮が薄いためタンニンの割合は低いから、熟成にも耐えるが早い時期にも飲める。早熟なこの品種の特徴は、やや色は薄いが、スパイスの効いた果実やプラムを思わせる芳しいアロマ、まろやかであっても存在感のあるタンニン、それでいて繊細な骨組みにある。
メドックではカベルネ・ソーヴィニヨンとよくブレンドされている。
ピノ・ノワール種は、ブルゴーニュの歴史が育てた最高品種。
小粒の果実がぎっしり付いた房がマツカサの形に似ていることから、ピノ(pinot=松)の名が生まれたと言われている。
繊細で、霜や病気の影響を受けやすく、早熟な性質で、非常に優れていると同時に、気難しい子どものような存在。しかし、ブルゴーニュ地方のように温暖な時期が短い北部では、この品種の持つ成熟の早さが一つのメリットとなっている。特筆すべきは、テロワールによって、驚くほど様々な味わいの赤ワインを生み出すことである。
色は濃い方ではない。長く続くその後味と繊細なアロマを持つ。その柔らかなタンニンと優しくシルキーで溶けるような舌触りのワインは、熟成によって洗練された気品を醸し出す。
新世界の栽培家達も、自分の地でもと試みているが、この品種の気難しさ故、冷涼な極く一部の地域のみがその幸運に恵まれている。
単品種で使われ、ブレンドされることはめったにないが、シャンパンには、シャルドネに、ピノ・ムニエと共にブレンドされる
シラー種は中世の十字軍が、イランのシラーズから持ち帰ったものと言われているが定かではない。この品種は、ローヌ河流域に広く栽培されているが、特に、ローヌ北部のコート・ロティやエルミタージュの急斜面の痩せて乾いた土壌でよく育っていて、色の濃い長寿の偉大な赤ワインを生み出している。
深みのある濃い色を持ち、スミレ、ブラックベリー、ブルーベリーのアロマはスモーキーでシャープ。タンニンもバランスよく持ち合わせている。
成熟期の遅い性質だが、近年フランスにおけるシラー種の栽培は大幅に高まっており、ローヌ河流域からラングドックやプロヴァンスへと拡がっている。
又、新世界でもオーストラリアのバロッサのような暖かい地域では濃密で豊かな力強いワインを造っているが、フランスとは全く異なる味わいである。世界中の栽培家達がこの品種に挑戦的実験を行っているが、そのワインの多くは、常に風味に富んだ切れ味をあとくちに残すものを持っている。
セミヨン種とのブレンドにより評判を呼んだグラーヴの白ワインが、このソーヴィニヨン・ブラン種を世界に広めたもとである。近年のワイン生産技術の進歩によって、そのアロマをより引き出す技術が定着した。
ロワールのサンセールやピイィ・フュメのような上質の石灰質土壌でよく育つ。幅広い適応能力を持つ品種だが、暑すぎると独特の香りと酸味を失ってしまう。従ってカリフォルニアやオーストラリアの多くの土地では重過ぎるものになりがち。
できるワインは、香りが鋭く、きわめて新鮮。生き生きとした豊かな味わいを持ち、比較的若いうちに飲むのがベスト。
シャルドネ種は、発芽が早いため春霜や病気に掛かり易い品種だが、非常に適応性が高い品種で、北のシャンパーニュ地方から、ロワール河流域、南のラングドック地方まで広範に渡り栽培されている。
しかし、冷涼な北部の土地でこそ、そのアロマの豊かさと酸味のバランス、熟成向きの素質を開花さる。最高のシャルドネが、ブルゴーニュ地方、特に モンラッシュで生産されているのは全くの偶然ではない。
気品ある白ワインを生み出すシャルドネ種は幅広い複雑なアロマを持ち、ライムの花、桃、洋ナシ、蜂蜜、柑橘類を思わせるその洗練された芳香は、トップクラスの葡萄品種の証である。
ライン河沿いに育った高貴種。白ワインの王と言われている。晩熟で冬霜に強い品種。ドイツの多くでは甘口ワインに仕立てるが、アルザスでは辛口を造るように、生産地によって全く違ったワインが出来る。又、華麗に熟成(オーク樽は使わない)させることも出来る品種でもある。
若いうちはデリケートなフルーツ香を帯びるが、熟成するにつれて、ペトロールと呼ばれる独特のブーケが出てくる。繊細さの中に華やかさもあり、ノーブルでエレガントな白ワインを造る。
20世紀の一時期、過小評価されていたが、近年再びゆっくりと流行し始めて、新世界の冷涼な地域でも栽培が始まり、良質なワインが生まれている。