現在、州北西部(North West Victoria)の灌漑を必要とする、「三大灌漑地域」の一つMurrayDarling(マレーダーリング地域域)で、州内の80%に当たる葡萄が栽培されている。
しかし、ビクトリア州は、オーストラリア大陸で、最も涼しい州で、葡萄の生育条件は非常に多彩な州であり、栽培地としての歴史も持つから見直され、ここ30年間で、Yarra Valley(ヤラ・ヴァレー)など古い産地はもとより、新しい地域も開発され、ワイン産地として新たな発展を見せている。
主要産地は、メルボルンの北東に広がる
・Yarra Valley (ヤラ・ヴァレー)、対岸に位置する
・Geelong(ジロング)、その背後の新興の地の、
・Grampians(グランピアン)、
・Pyrenees(ピレネー)に、ヤラ・ヴァレーの背後内陸部の、
・Goulburn Valley(ゴールバーン・ヴァレー)、
・Rutherglen(ラザーグレン)
であろう。
近年、より冷涼な気候で、オーストラリア最大の島・Tasmania (タスマニア島)も重要視されている。
この地は、オーストラリアのワイン産地の中でも美しい景観を持つところで、田園の風景もイギリスを思わせるところがある。この地方は、内陸地方の谷底の気候で、昼夜の気温差は激しいが、ゴールバン川が造った湖や小川により、川沿いは多少緩和される。
灌漑用水は豊富で、アンズ、サクランボなどの果物も多く栽培されている。
この地を特徴付ける一つだが、栽培主品種がローヌ系が占めている。1930年代からのマルサンヌに始まり、ヴィオニエ、ルーサンヌ、シラー、ムールヴェードルと続いた。
ワインは高品質の赤及白のワインができる。この地では、フィロキセラの被害を凌いだTahbilk Wines(タビルク)のみが、長い間唯一のワイナリーであった。1860年に設立されたタビルクにはシラーやマルサンヌの古木があり、これから個性ある高級ワインが造られている。白のライン・リーズリングも評価は高い。
また、木とレンガでできた創業当時の建物も残されており、文化財に指定されている。
ゴールバーン・バレー中央で、もう一つの大きなワイナリーは、Mitchelton Wines(ミッチェルトン)である。
1974年創業で、タビルクが伝統を重んずるワイナリーであるとすれば、ミッチェルトンは典型的に近代的なワイナリーと言える。大きなタワーのセラーを建て、その周辺に巨大プール、ピクニック場、バーベキュー施設などを備えて、多くの観光客を受け入れることができるようになっている。
ワインの生産量は多く、ライン・リーズリング、シャルドネ、セミヨンからの白と、シラーズ、カベルネからの赤ワインが造られている。
なお、ローヌ品種系のマルサンヌ、グルナッシュ及びヴィオニェの三種のブレンドの白ワインも造られている。
ゴールバンの南に位置する
Upper Goulburn (アッパー・ゴールバン)は、その間に、別のGI、
Strathbogie Ranges(ストラスボーギ・レーンジズ)を挟んでいるが、共に標高の高い山岳地帯と言える地形で、大半の畑は標高が高く(3~500m)。より冷涼な気候で上質のワインが造られている。
Domaine Chandon(ドメーヌ・シャンドン)のブドウ園が有名だが、この地はメルボルンのリゾート地でもある。
この北東部の産地は、北が
Rutherglen (ラザーグレン)と
Glenrowan(グレンロワン) 、南が標高の高い
King Valley(キング・ヴァレー)、
Alpine Valley(アルパイン・ヴァレー)、
Beechworth(ビーチワース)に分かれている。
この地は、相対的に、夏の日中は焼けつくような暑さであるが、夜はかなり涼しくなるので、基本的には重い赤ワインあるいは酒精強化ワインの生産に適した地域である。
歴史的には、19世紀末、この地域のラザーグレンでのゴールドラッシュによって人口が集積した。それに伴いドイツ人によって始められたワイン生産が急速に拡大した。
現在、中堅ワイナリーとして活躍している
Campbells Wines(キャンベルズ)、
Chambers(チェンバーズ)、
Morris(モーリス)
などのワイナリーは、この地域を襲ったフィロキセラの害を乗り越え、ワイン造りの伝統を守ってきている。
この産地にあって、特異な存在は、本拠をKing Valley(キング・ヴァレー)に持つBrown Brothers(ブラウン・ブラザーズ)である。
第二次大戦後、二代目のジョン.ブラウンは、テーブルワインの生産の可能性を早くから確信し、この地の標高の異なる地点にブドウを植え、適する品種と土地の選択を行い、テーブルワインの開発を行って来た。最初は、観光客に対してセラードアでテーブルワインを販売するという手法で普及を図った。やがて、そのエレガントなワインが評判となった。さらに、高級テーブルワインの生産と家族経営を強調した販売政策の成功もあって、今では年間20万ケースを販売する大ワイナリーとなっている。
ヴィクトリア州の中でも一番冷涼ともいわれる標高700mの高地にブドウ園を所有しており、涼しい気候を利用した高品質のワインが造られている。
この産地には、ヴィクトリア様式の建物が多く残されていて、ワイン産地巡りとしては、最も魅力的な地域の一つでもある。
現在、オーストラリア屈指のピノ・ノワール(ニュイよりもボーヌに近いタイプ)の産地として知られている。また、上品で長寿のシャルドネやリースリングの白もいいが、良質のカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、シラーズの赤も生産されている。
変化に富んだ地形で、川沿いの平地から急斜面にも畑が造られている。気候も一様ではないが、総体的には、最も温暖とされる場所でも、オーストラリアの中では冷涼な気候に分類される。涼しい期間が長く、夜、霧の発生が多い。葡萄の芽が出始める春先の霜に襲われることもあり、単収は高くない。
土壌は、灰色から茶褐色の砂土もしくは埴壌土の表土で、酸度が比較的高く、肥沃度は低く、水はけがいいものと、肥沃な赤色の火山性土壌がある。
ワイナリーとしては、あまり大型のものは少なく、、比較的小規模なものが多く、また農業経営を兼ねているワイナリーもあり、それぞれのワイナリーが特色のあるワイン造りを行っている。
この産地に注目して、進出したNSW州のDeBortoli(デ・ボルトリ)とSt Huberts(セント・ヒューバーツが、共に先導者の役割を果たした大手ワイナリーであろう。海外資本では、フランスのモエ・シャンドンのDomaine Chandon(ドメーヌ・シャンドン)。最良の発泡性ワイン産地としての礎を築いている。
ヤラ・バレーは、今後とも拡大していくものとみられているが、この産地はメルボルンに非常に近いことから、都市化の波にさらされており、産地として土地がどのくらい守れるかという大きな問題をも抱えている。
Port Phillip湾を挟んでメルボルンの対岸に位置するジロングは、ヤラ・バレーと並び、ヴィクトリア州の古い歴史を持つワイン産地である。
1875年にオーストラリアで、初めてフィロキセラがこの地で発見された。当時としては、フィロキセラを防除する方法がなかったので、政府の決定によってジロングのブドウの木はすべて抜かれることになり、これによりジロングのワイン生産は消滅、以後80年間中断されることとなった。
葡萄栽培は1966年、ワインの生産は1970年代初めに再開された。
気候は、海の影響を強く受け、冷涼ではあるが、春先の霜の害や開花期の強い風などで葡萄栽培には厳しい気候であるが、長い日照時間と涼しい乾燥した秋が、ブルゴーニュ品種を完熟させ、シャルドネやピノ・ノワールから良質のものができることで注目されている。
現在、産地としては小型で、ワイナリーの数も少なく、大ワイナリーもない。ヤラ・バレーと異なり、メルボルンから距樅的に離れているので都市化の波にさらされることもなく、土地価格も高騰しないことから、ワイン産地として今後の発展が期待されているところである。
なお、ジロングの対岸にあるMornington Peninsula(モーニントン・ベニンシュラ)は、1970年代に、その冷涼な海洋性気候が見直され、新しく開発されたワイン産地である。
三方を海に囲まれたこの半島の地は、海洋性の気候で、海風の影響で気温は低い。
ボルドー品種よりブルゴーニュ品種に向いている。野心的な栽培者やワイン生産者が多い。ワイン愛好家にこの地のピノ・ノワールやシャルドネの人気が高く、瞬く間に、トップ産地の地位を確保した。
現在、Grampians(グランピアン)と呼ばれている、Geat Western(グレート・ウエスタン)と言えば、Seppelt(セッペルト)の”シャンパン”と言われる程、この地での影響は大きい。
バロッサに本拠を置くSeppelt(セッペルト)が1918年買い取ったこの地の古いワイナリーには、金鉱掘りが残した数kmにも及ぶ地下トンネルがあって、現在もそれを利用してワインを貯蔵をしている。この地のセッペルトのワイナリー、 Seppelt Great Western(セッペルト・グレート・ウエスタン)の発泡酒用の葡萄は、その多くをマレーの灌漑地域から運んで来ている。良質で、コスト・パフォーマンスがいいから人気があるが、この地のシラーで造るワインは発泡、非発泡とも、とりわけ秀逸。更に南のHenty(ヘンティ)にも進出している。
20世紀初頭のテーブルワインの不振とフィロキセラの被害の影響から、ヴィクトリア州のワイン生産が停滞している中にあって、セッベルトの発泡酒は、売り上げを順調に伸ばし、輸出も拡大させ、発泡酒では他のワイナリーの追随を許さない地位を築いた。
また、この地は、ヴィクトリア州のなかでフィロキセラの被害を免れた地域でもある。
この地は、総体的に標高も高く、東部の産地に比べると相当涼しい。日照時間が比較的長く、適度な湿度もあるが、栽培期の降雨量は非常に少なく、灌漑は必要不可欠。
栽培主品種はシラー、カベルネ、ピノノワールで、全体的には赤ワインの産地と言える。
この地は1960年代に、仏のレミー・マルタンの投資で、最初に近代的なワイナリー:シャトー・レミーが設立され、ブランデーの生産を始めた。ブランデーの消費が落ちたため、発泡と非発泡のワインの生産に移行した。
現在、Blue Pyrenees Estate(ブルー・ピレネー・エステート)がこの地の最大のワイナリーだが、異色なのが、Taltarni Vineyards(タルターニー)であろう。
Taltarni Vineyards(タルターニー)は、シャトー・ラフィットが、カリフォルニアのナパ・バレーにクロ・デュ・パルを設立した後、オーストラリアのこのピレネー地区を選び進出してきたワイナリーである。ワインは、スパークリングワインのほか、特にリーズリングとソーヴィニョン・プランの白ワインが有名で、生産量は今日では6万ケースに達している。
コールバーン・ヴァレーとの間にある、Bendigo(ベンディーゴ)やHeathcote(ヒースコート)も、近年開発が進み注目されている。シラー、カベルネ、シャルドネが栽培主品種。
海に囲まれた最南端のタスマニア州は、島の西部と中央部は山の多い地形だから、産地は北部と、南東部の海岸沿いの限られた地域にある。
冷涼で海の影響を強く受け、春の霜や強風は常に心配の種である。従って、畑を作る位置の選定が難しい。南東部は大きな山脈に囲まれているため、南極海に面しているデメリットを感じさせず、完熟葡萄から秀逸なワインが造られている。
タスマニアのワイン産業の始まりは、北部ではフランス人のジャン・ミュゲが、南部ではイタリア系のクラウデイオ・アルコーソが、1950年代にブドウを植えたのが最初である。冷涼気候での格闘が2人によってつづけられた。
1972年、アンドリュー・ビリーは、北部のパイパーズ・ブルック地区が繊細なヨーロッパ・スタイルのワインに適するという研究により、オーストラリアで初めて栽培学でPhDを修得した。この研究をもとにPipers Brook Vineyards(パイパーズ・ブルック・ヴィニャーズ)が設立され、今ではタスマニア最大の影響力のある生産者になっている。
1980年代後半から1990年代には、葡萄の酸味が強いことから、主に、発泡ワインのベース原料の産地と見なされていた。
現在も、特に、北部のタスマニア産の葡萄果汁やベースワインは、大手企業によって本土に運ばれ、上質なオーストラリアの発泡ワインを造るために、重要な役割を果たしている。
タスマニアは、きわめて独特な非発泡ワインも産する。主品種は、リースリング、ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・ノワールだが、とりわけ全生産量の40%を占めるピノ・ノワールは、本土のものには見はられない、生き生きした繊細さを持っている。ピノ・グリやリースリングの白も繊細でさわやか。
現在、ワイン生産者の数は250近くにのぼる。大半はごく小規模で、10ha以上の畑を有する生産者は28しかないため、ワインの製造コストは比較的高い。
主なな生産者は、Pipers Brook Vineyards(パイパーズ・ブルック・ヴィニャーズ)、Jansz(ジャンツ)、Freycinet Vineyards(フレシネ・ウィニャーズ)、Stefano Lubiana wines(ステファノ・ルピアナ・ワインズ)。