モーゼル河は全長550kmだが、ルクセンブルグとの国境沿いを流れ、コブレンツ市でラインに合流するまで蛇行に蛇行を繰り返し、延々と約245kmの旅をする。直線距離にすれば140km程度だから、いかにその蛇行が大きいかが分かる。
北に向かって流れるモーゼル河のこの大きな蛇行があちこちで東西に流れる部分をつくる。従って、真南を向く傾斜面が多く出現する。しかも、ザール川、ルーヴァー川を始めとして、10を越える支流が流れ込むから、その川沿いは、著名なワイン村がひしめく名醸地である。栽培総面積は8,800ha。主としてRieslingが栽培されている。
一般にモーゼルのワインの味は,ラインガウが「優雅な貴婦人」に例えられるのに対し、愛くるしい澄刺とした「山の娘」と言われ、一語で言えば「冴えた酸味」。言い換えれば、歯切れの良い酸味の良さが特徴である。
しかし、モーゼルは南北に長い地域だから、総てに言える事ではない。モーゼル川の上流部と下流部では、その地形と土壌の違いによって、この味筋からはやや離れている。
ザール川の合流点までのルクセンブルグ国境沿いのこの地区は、ローマ時代からの古い品種・エルプリング(Elbling)が栽培されていて、ニュートラルで酸のきつい味を有し、主に地元で飲まれるか、ゼクトの原酒のブレンドに使われている。
ザールワイン(主にリースリング)の特長は、その素晴らしい果実香、エレガンス、そして糖と酸の絶妙なハーモニーにある。
充分にのった酸はぴしりとひきしまり、ワインに特有の性格を与えている。多くはないが、気候に恵まれた年には、世界の白ワインの女王と称される程の完璧に近いワインが造られる。
ルーヴァー川流域のこのワインは、ザールと対称的で男性的性格を持つ。複雑な風味に加え、あるものは、土の香りのようなものを感じさせる力強さを持つ。
ベルンカステル市を中心に広がるこのベライヒはモーゼルの中部に位置し、シーフアーボーデンと呼ばれるスレート粘板岩の風化した土壌で、香り、味共にニュアンスの豊かなワインを生み出し、昔からその名を知られている畑や生産者がひしめいている。
中部モーゼルのものに比べると、洗練されたニュアンスに富む味わいに欠けるが、フレッシュな日常ワインを造っている。
*ワインブック GAULT MILLAUの「Guide to German Wines」の<The leading Producers>の5クラスあるものの中から3クラス以上のものをピック・アップした。
トリーアは、大小のワインケラー、ワインショップ、国立ワイン学校、ワイン博物館などを擁し、盛大なワインフェスティバルが開催される、モーゼルのワインと文化の中心都市である。
2000年の歴史を持ち、ローマの遺跡が点在する。(総合慈善協会は、そのワイン倉にローマ帝国軍団の本部地下倉庫跡を利用している)。
アルプス以北最大のローマの都市で、8万人の人口を誇ったが、再びその数を回復したのはつい最近のことである。
ドイツに最初に司教座が置かれたのもこの地で(皇帝コンスタンティヌス時代)、後世には、強大な権力を持つ領主司教(選定候)がこの地方を治めた。
「資本論」を著したカール・マルクスは、このトリーア生まれである。