イタタ川の南に位置するイタタ・ヴァレーは、植民地時代にチリで最初にブドウ栽培が行われた地域。現在でも当時植樹されたスペイン系品種のパイスが多く残っている。
近年、フランス系品種のカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなどの栽培が増えてはいるが、パイスとモスカテルなどの栽培がまだまだ支配的な地域である。
この地域は、冬場の降雨量が1000mmを超えるため人工灌漑を必要としない。夏場の気温も中央部の産地より高いため、ブドウ栽培を容易にしている。そのため、植民地時代には多くの生産者を引きつけたが、19世紀末以降サンティアゴ近郊でのブドウ栽培が普及するにつれて、ブドウ栽培地としての重要性は次第に小さくなっていった。
しかし、ワイン生産の近代化、輸送条件の改良、また栽培に適した新しい土地が再発見されたことなどにより、近年この地域への注目が高まり、コンチャ・イ・トロなどチリを代表する生産者が本格的開発を行い先駆的な働きをしている。
フランスのメドック地方とよく似た気候条件の地で、長らく地元消費用ワインを産してきたが、イタタ・ヴァレー同様、ここ数年で新たな高品質ワイン産地として生まれ変わろうとしている。
この地域の特徴は、年間1300mmを超える雨量によって育まれた豊富な地下水と、夕方に発生する霧にある。寒冷な気候のため、収穫はチリ中央部の産地よりも1ヶ月以上遅れる。
シャルドネ、ゲヴェルツトラミネール、リースリングなどの白品種の栽培に適しており、ヨーロッパの産地と同様、酸味のしっかりした良質なワインを造ることを可能にしている。
また、内陸の平野部や沿岸の傾斜地で、ピノ・ノワールやカベルネ・ソーヴィニヨンなどの赤品種においても興味深い成果を上げている。
マジェコ・ヴァレーは、チリ最南端の栽培地(南緯38度)とは言え、北半球に当てはめれば、ほぼシチリアのパルレモに相当する。しかし緯度からは想像できない涼しさである。それは太平洋沿岸には山脈と言えるものが無く、大きく広がる河口から南極から流れてくる冷たいフンボルト海流の影響をまともに受けるからである。
年間を通して降雨が多い上に風も強く、収穫はマイポ川流域より2ヵ月も遅れるなど、厳しい自然条件下にある。
しかし、それが、果樹を引き締め、酸味のバランスに優れた、他のチリワインにはない多様なミネラル分を含んだ素晴らしい「SOL de SOL (ソル・デ・ソル・シャルドネ-アキタニア)」のような質のいい国際的に認められたワインを生み出している。
* サンティアゴから900km南の OSORNO(オソルノ)で高品質ワイン用葡萄が少量植えられている。SAG(Servicio Agricola Y Ganadero=農牧局)によるDO指定栽培地(Denominacion de Origen)だが、開発が始まったばかりの地域。非常に寒冷で、雨量も多い地域だから、ワイン生産の将来は予測し難く、試作段階と言える。栽培総面積:5ha